ジャパンドリーム - 外国人材はなぜ日本を目指すのか?
- 米山伸郎
- May 15, 2020
- 6 min read
Updated: May 15, 2020

日本文化と日本語
筆者の務める日賑グローバル株式会社でこれまで中堅・中小企業のお客様に紹介してきた外国人材や、自社採用してきた外国人材の国籍は、中国、ロシア、マレーシア、中国(マカオ)、イタリア、ドイツ、インドネシア、ベトナム、インド、米国、フランス、スウェーデン、シンガポール、フィリピン、ニュージーランド、モロッコ、ネパール、コロンビアなど様々である。
年代では20代が最多で、30代が若干といったところである。 男女比は若干男性が多いものの、女性は総じて日本語に長け意識が高い印象がある。
御多分に漏れず彼ら、彼女らは子供時代から日本の漫画、アニメ、ゲームやコスプレといったサブカルチャーを母国で経験している世代で、日本に親近感を持っている。 ただ、実際に採用面接や紹介後の定着化のための面接を通じ、彼ら、彼女らが日本を目指した原点を尋ねていくと、夫々異なる「Why Japan?」が見えてくる。
その詳細は次回以降の具体的な事例で紹介するが、サブカルチャーで出会った日本への興味を「日本行き」の具体的な行動に繋げるのが語学、即ち日本語への投資であろう。
漢字、ひらがな、カタカナの区別や、敬語、謙譲語等TPOに応じた表現の使い分け、主語を飛ばすハイコンテクストな対話など、日本語学習には困難が付きまとう。その苦労を乗り越えて日本語を身に着けて日本に行ってみたいと若者に思わせる魅力が日本にあるとすればそれはやはり「日本の文化」ということのようである。 繊細さ、完璧主義、職人技、自然との調和、おもてなし、伝統美など夫々の外国人材のハートをとらえた切り口は様々だがその根っこに「日本が大切にしている価値」があることは間違いない。 たまたま観光で日本を訪れた際に、或いは高校や大学での交換留学の機会などでその「日本的価値観」の一端に触れて感化され、後日改めて日本を目指すというケースが多い。
アメリカンドリーム vs. ジャパンドリーム
筆者は長年のアメリカ駐在経験を通じ、「アメリカンドリーム」を信じて移民してくる人々や留学してくる海外の若者を身近に見たり彼らの物語を聴いたりしてきた。
アメリカは努力と才能に対して平等であり、出身国や人種、信教、性別、年齢を問わず、実力を示せれば成功の梯子を昇っていけるという希望である。
現実のアメリカには、住宅や学区での人種の区別的なものや「ガラスの天井」と呼ばれる女性の昇進の限界など真の平等ではない部分もまだあるが、「努力すれば報われる」感覚はアメリカには総じて残ることから上昇志向の強い移民や留学生は必死で努力、即ち勉強に勤しむ。そして、自分のキャリアを意識し、より高いところに昇れる梯子を見出せば躊躇せず転職或いは起業していく。 優秀な外国人材を自らの組織にキープし続けようと思えば、その組織内で魅力的な梯子を見せてやり、努力すればどこまで昇れるかを示してやる必要がある。アメリカのマネジメントのスキルとして様々なバックグラウンドを持つ人材に夫々の長所を生かしながらより高い能力を発揮させるいわゆるダイバーシティマネジメントが問われるのはそういった優秀でハングリーな社員を組織内に囲い込み、成長させる必要があるからである。
一方、日本を目指す外国人材も夫々夢を持ってやってくる。これまでの彼らとのやり取りで感じるのは、彼らが必ずしもアメリカのような上昇志向を夢の中心に据えているのではなく、前出の日本的価値観を自分なりに極め、夫々に持つ将来の「ありたい姿」に近づいていこうとするものといえる。
双六でいう「上がり」の姿がクリアではないが、自分の価値観とフィットする日本で何がどこまで可能か腕試ししてみたいといったところであろうか。
アメリカを目指す外国人材と同様、彼ら、彼女らも「自分のキャリア」という意識は強い。 従い、就職する会社で自分はどこまでの成長が可能かを想像し、そこに近づくために会社はどういった職場環境や機会(職責、配置や研修)をくれるのかという思いは強い。 ただ、アメリカの場合に比べ、収入や昇進といった価値だけを目指すものではないと感じる。
技能実習生の場合
前項のケースは専ら大卒以上の高学歴者で、前号で紹介した「技術・人文知識・国際業務」の在留資格か「配偶者が日本人」の資格で日本にて仕事を行う外国人材のケースである。
一方、途上国から技能実習生として来日する人材は、基本的に地方で育った次男、三男、次女、三女等が物理的に近い先進国である日本に「出稼ぎ」で来る感覚が強い。
ただ、後述するように、3年乃至5年日本にいる間に受ける教育や体験を通じ、多くの得難い経験を積んで母国に戻り、そこで成功を遂げる先輩たちを知り、自分もそれに続けとの思いでジャパンドリームを持っている若者も多い。

先輩の成功例
長年、途上国の政府と直接契約を取り交わし、地方での若者を選抜して技能実習生として日本で受け入れてきた公益財団法人国際人材育成機構(略称アイムジャパン)のストーリーはまさにジャパンドリームと感じる。というのも3年乃至5年日本で実習生として就労したのちに母国に戻り、日本で学んだことや日本との関係を生かして起業する「経営者」が多く輩出されているからである。
個人事業主的な規模の会社もあるが、中には従業員数百名の早々たる規模に成長している会社もある。 タイの「アイム・ジャパン帰国実習生社長の会」会長は「日本で身に着けたもので役立っていると感じること」について次のように応えている。
「やはり、日本文化と日本企業の習慣が学べたことだと思います。例えば、お客さんから突然無理な注文や依頼が入った場合、タイ人であれば、その場で断るケースがほとんどでしょう。しかし日本人は、すぐには断らず、何とかならないか考えようとする。無理な依頼でも一度持ち帰り、検討し、最終的に何とかしてしまうのが日本人のスタイルですよね。いわゆる、一度できたつながりを大切にし、そのつながりをできるだけ保とうとする。この習慣こそが日本にあってタイにないものだと思います。日本で得たこの知識は、今の自分の仕事においても大いに役立っていると思います」
こういった「実習生」を育てた日本企業の経営者は彼らを誇りに思うだけでなく、互いの関係を生かして海外取引ができることは言うまでもない。
ジャパンドリームは日本人にもあるのか?
大卒の外国人材であれ、技能実習生であれ、自らのキャリアを意識し、その成長過程の中で「日本文化」「日本的価値観」を顕在的にプラスに生かそうとしている。その姿を見る同僚の日本人社員に良い影響を与えないはずはないと筆者は信じる。日本人の場合、自らのキャリアを真剣に意識するのは退職や転籍など就労人生の終盤となる場合が多いかもしれない。言い換えれば、若手、中堅の段階で自らのキャリアを考え、主体的に仕事にチャレンジしていく姿勢が乏しい。「意識的に望めば与えられる」チャンスや価値が日本の職場の中にもあることを外国人材と共に働くことで気づけると筆者は主張したい。
次回からはその具体的な事例を紹介していく。
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